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千葉地方裁判所 昭和45年(行ウ)9号 判決

千葉県印旛郡印西町船尾一、三二一番地

原告

横尾治夫

右訴訟代理人弁理士

松本昌道

尾崎正吾

佐藤義行

同県成田市土屋九三五番地

被告

成田税務署長

河奈祐一

右指定代理人

前蔵正七

篠田学

岡田重三

神沢明

斉藤幸雄

中川精二

主文

原告の各請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告が昭和四四年一月二〇日付をもつてなした、原告の昭和四二年分の所得税額を金九、一七五、〇〇〇円とする更正処分中、金三、一一六、八〇〇円を越える部分、及び過少申告加算税賦課処分をそれぞれ取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  原告は、昭和四二年分の所得税につき、別表記載申告額欄のとおり確定申告をなしたところ、被告は原告に対し、昭和四四年一月二〇日付で別表記載更正額欄のとおり、更正処分及び過少申告加算税賦課処分をなした。

2  そこで、原告は昭和四四年二月一〇日付で被告に対し、右各処分につき異議申立をしたところ、被告はこれを棄却する旨の決定をしたので、原告は更に、右決定に対し、東京国税局長に審査請求をしたところ、同国税局長は昭和四五年四月一三日これを棄却する旨の裁決をし、同月一七日、その裁決書謄本を原告に送達した。

3  しかしながら、原告の昭和四二年分の所得税額は、前記申告額が正当であるから、これを上回る右更正処分はその限度で違法であり、したがつて過少申告加算税賦課処分も又違法であるので、請求の趣旨記載第1項のとおり各取消を求める。

二、被告の認否と主張

1  請求原因1、2の事実は認め、同3は争う。

2  被告の主張

(更正処分について)

(一)(1) 原告は、昭和四二年一二月一日ころ、公明開発株式会社(代表取締役高野節雄。以下、「公明開発」という。)との間で、原告所有の別紙物件目録一記載の土地(以下、「印西町の山林」という。)と公明開発所有の別紙物件目録二記載の土地(以下、「平川町の山林」という。)を交換し、かつ、公明開発が補足金として二、〇二八、九七八円の金員を原告に交付する旨の交換契約をした。

(2) 公明開発が、平川町の山林の所有権を取得するに至つた経緯は次のとおりである。すなわち、

イ、御園睦雄(以下、「御園」という。)の代理人山口久雄(以下、「山口」という。)は、昭和四二年九月一六日桐谷光(以下、「桐谷」という。)及び根本満(以下、「根本」という。)の両名にその所有する平川町の山林の分筆前の土地である千葉県君津郡平川町大字林字小作三六一番一山林四四、五一八・五五平方メートル(四町四反八畝二七歩。以下、「旧平川町の山林」という。)及び、千葉県君津郡袖ヶ浦町林字小作(旧表示-同県同郡平川町林字小作)三六一番二山林及び同所三六一番四山林の二筆の土地合計三、〇三二平方メートル(三反歩)(以下、「三反歩の山林」という。)を代金一八、三〇〇、〇〇〇円で売渡し、次いで、桐谷及び根本の両名は、昭和四二年一〇月一一日公明開発に対し、旧平川町の山林と三反歩の山林の両土地を代金二一、七〇〇、〇〇〇円で売り渡した。

ロ、公明開発は右経緯により取得した旧平川町の山林及び三反歩の山林のうち旧平川町の山林を昭和四二年一一月一八日別紙物件目録二記載(一)、(二)の土地(平川町の山林)に分筆登記し、更に同月二五日、同(一)の土地につき増歩登記をなした上、これにより、面積合計五一、八四二平方メートルとして、右平川町の山林を原告所有の印西町の山林と交換するに至つたものである。

(3) 以上のとおりであるから、公明開発が原告と交換契約をする際には、公明開発が平川町の山林を有していたのは一年未満の期間であること明らかである。

(二)(1) ところで、所得税法(昭和四三年法律第二一号による改正前のもの。以下、同じ。)五八条一項の交換の場合の譲渡所得計算上の特例措置(譲渡所得の計算上、譲渡資産の譲渡がなかつたものとみなされる。)の適用があるためには同条項上譲渡資産はもちろん、取得資産についても、交換の相手においてこれを一年以上有していたことが必要である旨定められている。

(2) すると、前記(一)(3)のとおり、原告の交換の相手である公明開発が、交換に供した平川町の山林を有していた期間は一年未満であるから、右条項に定める、交換の場合の譲渡所得計算上の特例措置は原告に対して適用されないこととなるのであつて、印西町の山林の交換譲渡につき、所得税法三六、三八条等に定める通則的計算方法に拠ることとなるものである。

(三)(1) そこで、原告の印西町の山林の譲渡にかかる収入金額を算定すると次のとおりである。すなわち、

原告が印西町の山林の譲渡による対価として公明開発から取得したのは、前記のとおり、平川町の山林(合計五一、八四二平方メートル)及び交換にかかる補足金たる金員二、〇二八、九七八円である。そして、公明開発は、旧平川町の山林を、昭和四二年一〇月一一日売買により、桐谷及び根本の両名から、三反歩の山林(合計三、〇三二平方メートル)と共に、代金合計二一、七〇〇、〇〇〇円で取得したものであり、右代金額を基礎として面積按分比例により旧平川町の山林(増歩登記後の面積五一、八四二平方メートルで計算)の代金相当分を算出すると、二〇、三一一、九三七円と計算される。

これによれば、原告の印西町の山林の譲渡にかかる収入金額は、右代金相当部分、すなわち二〇、三一一、九三七円と、前記交換にかかる補足金二、〇二八、九七八円の合計二二、三四〇、九一五円と認められる。

(2) 次に、所得税法三八条一項、六一条二項、同法施行令一七二条一項により、譲渡資産たる印西町の山林の取得費を計算すると、七六、九四二円と算出される。(昭和二八年一月一日における相続税評価額にもとづく。(当該山林の九九一・七三平方メートル(一反歩)当り賃貸価額九〇銭×相続税財産評価基準にもとづく評価倍数三〇〇)×印西町の山林面積=七六・九四二円)。

(四) そうすると、原告の譲渡所得の計算内容は次のとおりとなる。

(1) 譲渡にかかる収入金額

印西町の山林 二二、三四〇、九一五円

訴外木下不動産に対する資産譲渡分(申告分) 一六、六八六、二二六円

(計 三九、〇二七、一四一円)

(2) 取得費等必要経費

印西町の山林分 七六、九四二円

木下不動産への譲渡分(申告分) 三九、三四七円

(計 一一六、二八〇円(九円の差は端数処理によるものである。))

(3) 譲渡所得金額((1)―(2)―譲渡所得の特別控除金額三〇〇、〇〇〇円)三八、六一〇、八六一円

(五) 以上の次第であるから、被告は別表記載更正額欄のとおり原告に対し、更正処分をしたものである。

(過少申告加算税賦課処分について)

(六) 前記のとおり、被告の更正処分により、原告は、昭和四二年分所得税として、申告額三、一一六、八〇〇円のほか、新たに、六、〇五九、〇〇〇円の税額を納入すべきこととなつたので、右増差税額につき、国税通則法六五条一項、三五条二項二号により、その五%に当る額を、別表記載のとおり、原告に対する過少申告加算税として賦課処分したものである。

(七) 以上のとおりであるので、被告が原告に対してなした更正処分及び過少申告加算税賦課処分はいずれも適法である。

三、被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張に対する原告の認否

(一) 被告の主張(一)(1)は否認する(ただし、高野節雄が公明開発の代表取締役であることは認める)。(2)イは認めるが、ロは争う(ただし、昭和四二年一一月一八日、旧平川町の山林が別紙物件目録二記載(一)、(二)の土地(平川町の山林)に分筆され、更に同月二五日被告主張の増歩登記がされ、面積合計五一、八四二平方メートルとなつたことは認める。

(3)は争う。

(二) 同(二)(1)は認め、(2)は争う。

(三) 同(三)(1)、(2)は争う。

(四) 同(四)(1)、(2)のうち、原告の木下不動産に対する資産譲渡分(申告分)についての計算結果は認めるが、その余は争う。(3)は争う。

(五) 同(六)、(七)は争う。

2  原告の反論

(更正処分について)

(一) 原告は、昭和四二年一一月ころ、御園の代理人山口との間で原告所有の印西町の山林と、御園所有の平川町の山林を交換し、かつ、御園が、補足金として二、〇二八、九七八円の金員を原告に交付する旨の交換契約をしたことにより、同人に対し、印西町の山林を譲渡したものである。なお、右補足金の金額は、印西町の山林を九九一・七三平方メートル(一反)当り一、〇〇〇、〇〇〇円平川町の山林を同じく五〇〇、〇〇〇円の割合で評価したことによる交換差額として授受されたものである。

右交換の事実は、印西町の山林につき、いずれも原告から御園に対し、交換を登記原因(ただし、登記原因日付は昭和四二年一〇月一日)として、昭和四二年一二月一五日付で所有権移転登記がされ、他方、平川町の山林につき、いずれも御園から原告に対し、交換を登記原因(ただし、登記原因日付は、別紙物件目録二記載(一)の土地については昭和四二年一二月一日、同記載(二)の土地については同年一〇月一日)として昭和四二年一二月二〇日受付で所有権移転登記がされていることからも明らかである。

(二) 原告及び御園間の右交換に至る経緯は次のとおりである。すなわち、

(1) まず、御園の代理人山口及び桐谷・根本両名間、ならびに桐谷・根本両名及び公明開発間で旧平川町の山林について各売買契約がされたことは被告主張のとおりである。

(2) しかしながら、昭和四二年一一月ころ、御園の代理人山口及び桐谷・根本両名間、ならびに桐谷・根本両名及び公明開発間で、それぞれ前記各売買は合意解除された。

そして、同時に、右(一)記載の交換契約が、御園の代理人山口及び原告間でされると共にこれにより御園が取得するに至つた印西町の山林が、御園の代理人山口から桐谷・根本両名に、更に、右両名から公明開発に売渡された。

(3) 他方、前記合意解除により御園に復帰した三反歩の山林については、同じころ御園の代理人山口から公明開発に売り渡され、その代金である二、〇二八、九七八円は、前記(一)による原告との交換契約にもとづく御園の原告に対する補足金債務弁済のため、公明開発が同額の金員を原告に対して立替交付し、右立替金債権と相殺されたものである。

(4) かように、一たん成立した前記二個の売買が合意解除され、同時に右記載のように、新たに、交換及び二個の売買がされたのは、原告所有の印西町の山林が千葉県開発庁の施行にかかる北総開発区域内にあつたことから、かねて公明開発において目をつけていたところ、原告は、開発反対運動のグループに属していたため、他のメンバーに対する信義上売却はできないけれども、適当な土地と交換する形をとれば体面が保てるので、若干の交換差益の入る交換なら応じてもよい旨のべていたため、御園所有の平川町の山林と交換することとなつたことによるものである。

(三) そして、御園及び原告間の前記交換の際、御園は平川町の山林を、原告は印西町の山林を一年以上有していたから、所得税法五八条一項により、原告の、右交換に伴なう印西町の山林の譲渡については、譲渡所得の計算上、譲渡資産の譲渡がなかつたものとみなされることとなるはずである。

(四)(1) なお、御園が、桐谷・根本両名、及び公明開発らと取引する際には、御園については、全て、その代理人山口によりされたものであるところ、御園・山口間の代理権授与契約上は旧平川町の山林を、九九一・七三平方メートル(一反)当り四〇〇、〇〇〇円以上で売渡す旨の代理権授与がなされただけで、原告の印西町の山林と交換するとか、交換後の印西町の山林を更に桐谷・根本の両名に売却するとかの代理権限までは授与していなかつたかも知れないが、各取引の相手方は山口に代理権ありと信ずべき正当事由があつたし、御園も、右各取引について無権代理による無効を主張しているわけでなく、その経済効果は容認しているのであるから、第三者たる被告がその無効を主張し、あるいは、公明開発と原告の交換であると主張することは許されない。

(2) 又、公明開発と原告との交換であるというためには、イ、御園から桐谷・根本両名に、更に右両名から公明開発に旧平川町の山林の所有権が移転したこと(売買契約が成立したことだけでは足りない。)、ロ、原告と御園間(代理人山口)の交換が虚偽表示その他民法上の無効原因で無効となること、以上二点を被告において主張・立証しなければならないところ、被告はこれをしていない。

(五) かりに、被告主張のとおり、公明開発及び原告間で交換がされたものであるとしても、原告は平川町の山林につき登記簿の記載から、御園が一年以上これを所有していたと考え、すなわち、過失なくしてそのように信じたのであるから、かかる場合は、所得税法五八条一項の交換による特例を適用すべきものである。その場合、交換の一方当事者についてのみ同条項を適用することになるかも知れないが、そのような相対的判断が許容せられるべきである。

(過少申告加算税賦課処分について)

(六)(1) 過少申告加算税賦課に関する根拠規定たる国税通則法六五条一項をうけて、同条二項は、「前項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となつた事実のうちにその……更正前の税額……の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、同項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事項に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、同項の規定を適用する。」と定められているところ、同条一、二項の全体的趣旨からは、右正当の理由のなかつたことにつき、課税庁である被告が主張・立証責任を負担するものと解すべきである。しかるに、被告は、原告に対する過少申告加算税賦課処分について、正当の理由のないことを主張立証していないから、その取消を免れない。

(2) かりに、正当の理由について、原告が主張・立証すべきであるとしても、原告は、前記(五)記載のとおり、平川町の山林は御園が所有(一年以上)しているものと信じていたし、公明開発の所有(一年未満)であることを知ることは全く不可能な事柄に属するから、原告について、前記条項に定める正当の理由があるものというべきである。

(3) ひるがえつて、国税通則法六五条の規定の合憲性を考えるに、同条二項は、「正当の理由」の何たるかを全く明記せず、あげて課税庁にその判断を白紙委任しているものであり、かかる規定は憲法三一条に違反し、従つて、同条は全体として無効というべきである。(参照・最高裁判所昭和四七年一一月二二日大法廷判決(判例時報第六八四号一八頁))。

そうすると、同条を根拠とした被告の原告に対する過少申告加算税賦課処分も又違法たるを免れないのである。

四、原告の反論に対する被告の認否及び被告の再反論

1  原告の反論に対する被告の認否

(一) 原告の反論(一)のうち、登記の事実は認めるが、その余は否認する。

(二) 同(二)のうち、(2)、(3)は否認し、(4)は知らない。

(三) 同(三)ないし(六)の原告の主張はいずれも争う。

2  被告の再反論

かりに、原告主張の御園との交換がされたものとしても、原告は、所得税法五八条一項による交換の特例措置を受けるための申告手続要件を欠くものである。

すなわち、同項に規定される交換の特例措置を受けるためには、確定申告書に同条項の規定の適用を受ける旨、取得資産及び譲渡資産の価額、その他大蔵省令(所得税法施行規則三七条)で定める事項の記載がある場合にかぎり適用されるところ(所得税法五八条三項)、原告は昭和四二年分確定申告に右事項を記載していないし、又、その不記載についてやむを得ない事情があるとは認められないのであるから(同条四項)、原告は交換の特例措置を受けるための手続要件を欠くものである。

五、原告の再々反論

原告が所得税法五八条一項の交換の特例措置を受けるための手続要件を欠く旨の被告主張は権利の濫用であつて許されない。

すなわち、一般に、納税者の提出する確定申告書は、税務署職員が代筆することが慣行となつており、原告の昭和四二年分の確定申告書についても例外でなく、被告職員が事実上作成したものである。されば、自らの職員の過失、少くとも指導の不十分にもとづく手続要件の欠缺を本訴において主張するのは権利の濫用というべきである。

第三、証拠

一、原告

1  甲第一ないし第一八号証。第一九号証の一ないし六。第二〇号証の一ないし四。第二一号証の一ないし五。

2  証人高野節雄(第一、二回)、原告本人。

3  乙第一二、一三号証、第二一号証の一二の成立は認める。その余の同号各証の成立(このうち、第一ないし第五号証については原本の存在及び成立)は知らない。

二、被告

1  乙第一ないし第二〇号証。第二一号証の一、二。第二二号証。

2  証人御園睦雄。同桐谷光(第一、二回)。

3  甲第一号証中、横尾治夫の署名印影部分の成立は知らない、御園睦雄の署名印影部分の成立は否認、官署作成部分の成立は認める。第一二号証の成立は知らない。第一三号証の原本の存在及び成立は知らない。第一四、一五号証の成立は知らない。第一六ないし第一八号証の原本の存在及び成立は認める。第一九号証の二、第二〇号証の二、三、第二一号証の三の成立は知らない。その余の甲号証(ただし、第二一号証の二は除く。)の成立は認める。

理由

一、請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二、そこでまず、更正処分の取消請求について判断する。

1、昭和四二年九月一六日御園の代理人山口が桐谷・根本両名に対し、御園所有の旧平川町の山林及び三反歩の山林を売渡し、次いで昭和四二年一〇月一一日桐谷・根本の両名が、公明開発に対し、右両土地を売渡したこと、なおその後、旧平川町の山林は、昭和四二年一一月一八日別紙物件目録二記載(一)、(二)の土地(平川町の山林)に分筆され、同月二五日同(一)の土地について増歩登記がされ、これにより両土地の面積合計は五一、八四二平方メートルとなつたことは当事者間に争いがない。

2、(一) ところで、原告は、昭和四二年一一月ころ、御園の代理人山口及び桐谷・根本両名間、ならびに桐谷・根本両名及び公明開発間でそれぞれ前記各売買は合意解除された旨主張する。

証人高野節雄(第一、二回)(以下、「高野」という。なお、同人が公明開発の代表取締役であることは当事者間に争いがない。)の証言によれば、前記各売買があつたのち、同人と、桐谷及び御園の代理人山口ら三名が桐谷宅で二、三回会合をもち、その席で、原告所有の印西町の山林と御園所有の旧平川町の山林を、右増歩登記した後に交換し、その上で印西町の山林を桐谷・根本両名が御園から、次いで右両名から公明開発が買い受けるべく、まず、前記各売買を合意解除することに三名の間で話がまとまつた旨、なお、このように改めて契約をやり直すこととしたのは、昭和四二年当時、原告所有の印西町の山林が北総開発区域の中に入つていて、土地の値上りが見込まれたことから、公明開発は原告と買受方交渉していたところ、原告が同じ開発反対運動をしている仲間に対する手前、売ることはできないが交換ならよいというので、高野において原告と御園の各所有土地を交換させるのがよいと考えたためである旨の各証言部分があり、前記原告の主張に沿う内容となつている。

しかしながら、(1)、右証言のように、かりに、原告が印西町の山林を売ることはできないが、交換ならよいと述べたのであれば(この点、原告本人尋問の結果にも同旨の供述部分がある。)、公明開発は既に旧平川町の山林を買い受けていたのであるから(後認定のとおり、公明開発は、昭和四二年一〇月一六日所有権を取得している。)、直接公明開発と交換するのは可能であつたはずであるし、又、かねて、公明開発の代表取締役である高野と原告は取引上の知り合いであつたのに、原告本人尋問の結果によれば、原告は御園とは一面識もないのであるから、原告において、同一の物件を取引するのに、少くとも、あえて高野を避けて御園を相手とすべき、殊更な取引上の不安があつたとも考えにくいこと、

(2) 前記二個の売買を合意解除した時期如何、新たにされるべき、印西町の山林についての御園及び桐谷・根本両名間、ならびに右両名及び公明開発間の取引内容如何(代金額、既存の二個の売買に当つて授受した金員の処理等)について右証言は具体性に欠け、甚だあいまいであること、

(3) 証人桐谷(第二回)は、公明開発の代表取締役高野とは登記関係のことで会つたことはあるが、(昭和四二年一〇月一一日付)売買の合意解除の話をした事実はない旨証言しており、右証言は明確で信用するに足りるものであること、

(4) 証人御園の証言及びこれによりその成立を認める乙第七号証によれば、同人は、居宅の新築及び借金の返済等のための資金を捻出する目的で同人所有の旧平川町の山林を他に売却することを企画していたものであつて(これにより、右山林を九九一・七三平方メートル(一反)当り四〇〇、〇〇〇円以上で売渡す旨の代理権を与えたのである。)、他の土地と交換する意図はもつていなかつたものであり、原告主張の交換に応ずることによつて、何らの利益を得るものでなかつたことが認められること、又高野証言(第二回)によれば、公明開発から、御園の代理人山口には三五〇、〇〇〇円、桐谷・根本両名には、売買代金(二一、七〇〇、〇〇〇円)に上乗せする形で四〇〇、〇〇〇円がそれぞれ支払われたことが認められるけれども、山口に対する支払いは、後記交換登記申請に必要な書類を作成することに対する謝礼の意味でされたことは、右高野証言自体からうかがわれることであるし、他方、桐谷・根本両名に対する四〇〇、〇〇〇円の支払いは、資金繰りに窮した公明開発が、売買代金の支払いを数回延期したことで右両名に迷惑をかけたことに対する見返りの意味でされたことが、桐谷証言により認められるのであつて、御園の代理人山口や、桐谷・根本両名にも、何ら交換をすること自体による利益はなかつたことが認められること、

以上(1)ないし(4)からすると、前記高野証言はたやすく信用できない。もつとも、甲第一二号証(「土地売買契約証書」)は、印西町の山林についての桐谷(単独名義となつている。)及び公明開発間の売買契約書であり、かつ、その条項中、「第一一条」として「前回昭和四二年拾月拾日契約の平川町の物件は交換契約となつたので交換后の御園所有登記せる本物件契約に振替る契約金は同時に今回の契約金に充当する」なる記載があり、右文言は合意解除に言及しているかに見えるが、前記桐谷証言に照らし、同号証が真正に成立したものとは認めるに足りない。そして他に原告主張の合意解除があつたと認めるに足りる証拠はない。

(二) 原告は、前記各売買の合意解除と同時に、原告所有の印西町の山林と御園所有の平川町の山林が、原告と御園(代理人山口)との間で交換された旨主張しており、甲第一号証(「土地交換契約書。」なお、同号証の官署作成部分の成立については当事者間に争いがない。)は、原告主張の右交換を契約内容として記載した書面であるところ、(1)前記(一)のとおり、原告主張の交換の前提となるべき合意解除の主張が認めるに足りないものであること、(2)右書面は、昭和四二年一二月、後記交換登記の直前に、平川町の山林の所在場所付近の司法書士事務所において、公明開発の代表取締役高野、北総開発株式会社(成立に争いのない甲第二ないし第九号証によれば、右会社は、印西町の山林について後記御園の交換登記と同日受付で同人からの所有権移転登記を受けており、これからすると、当時、印西町の山林については、買受人たるべく予定されていたものとの推測は難くない。)の代表取締役浅野某、山口及び原告らが参集して作成されたものであることが原告本人尋問の結果から認められること、(3)証人御園の証言によれば、同人は右書面の存在を全く知らないことが認められること(もつとも、右書面の御園名下の前記印影は、山口が当時御園から預かつていた同人の実印を用いて顕出したものであることは右証言から認められる。)からすれば、同号証はもつぱら、後記交換登記手続(ことに平川町の山林について)のために他の登記関係書類と共に準備されたものであることが認められ、同号証の存在から直ちに、原告主張の交換の事実が認められるものではない。

そして、印西町の山林につき、いずれも原告から御園に対し、交換を登記原因(ただし、登記原因日付は昭和四二年一〇月一日)として、昭和四二年一二月一五日受付で所有権移転登記がされ、他方平川町の山林につき、いずれも御園から原告に対し、交換を登記原因(ただし、登記原因日付は別紙物件目録二記載(一)の土地については昭和四二年一二月一日、同記載(二)の土地については同年一〇月一日)として昭和四二年一二月二〇日受付で所有権移転登記がされていることは当事者間に争いがないところ、前記認定の事情からすれば、右登記の事実から、そのとおりの交換がされたものとは認めるに足りないというほかはない。また、原告主張に沿う前記高野証言及び原告本人尋問の結果はいずれもたやすく措信できず、他に原告主張を認めるに足りる証拠はない。

(三) 更に原告は、御園及び原告間の交換後、園御から桐谷・根本両名に、右両名から公明開発に、それぞれ印西町の山林が売渡された旨主張しているけれども、御園及び桐谷・根本両名間の右売買については、全証拠によるもいかなる契約書面も作成された形跡もないし(前記争いのない昭和四二年九月一六日における当事者間の売買については、証人桐谷の証言(第一回)により原本の存在及び成立を認める乙第一号証のとおり、売買契約書が作成されていることを考えれば、この事実は右主張の契約の成立を疑わしめる事実の一つということができる。)、他方、桐谷・根本両名と公明開発間の右売買については、甲第一二号証(「土地売買契約証書」)が提出されているけれども、これが真正に成立したものと認めるに足りないことは前記のとおりである上、以上の原告主張に沿う高野証言は桐谷証言に照らしたやすく措信できず、他に原告主張を認めるに足りる証拠はない。

なお、原告は、前記合意解除後御園に復帰するに至つた(旧)平川町の山林及び三反歩の山林のうち、三反歩の山林は、公明開発が同人から直接買受けた旨主張するところ、その旨の契約内容を記載した書面である甲第一四号証は、御園の記名下に同人の押印がなく(高野証言(第二回)によれば、同人が御園の代理人山口に要求しても調印方協力が得られなかつた旨の証言がある。)、同号証自体によつて右主張の契約の存在を認めるには足りず、右主張に沿う高野証言(第一、二回)はたやすく措信できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3、次に公明開発及び原告間における被告主張の交換の存否について検討する。

(一)  昭和四二年九月一六日御園の代理人山口が桐谷・根本両名に対し、御園所有の旧平川町の山林及び三反歩の山林を売渡し、次いで昭和四二年一〇月一一日桐谷・根本の両名が、公明開発に対し、右両土地を売渡したこと(そして前記乙第一号証によれば、昭和四二年九月一六日付売買においては、所有権移転の時期は売買代金の支払が完了した時とする旨の約定があるところ、桐谷証言(第一、二回)により原本の存在及び成立が認められる同第二号証によれば、昭和四二年一〇月一六日に代金全額が完済されたことが認められる。他方、前記昭和四二年一〇月一一日付売買については、同証言により原本の存在及び成立が認められる乙第三号証によれば、右売買において、所有権移転時期については、特段の約定はなかつたことが認められ、以上によれば、最終買受人たる公明開発が旧平川町の山林(及び三反歩の山林)について所有権を取得したのは昭和四二年一〇月一六日であることが認められる。)は前記のとおり、当事者間に争いがないこと(なお、旧平川町の山林が昭和四二年一一月一八日別紙物件目録二記載(一)、(二)の土地(平川町の山林)に分筆され、次いで同月二五日に同(一)の土地につき増歩登記がされたので、両土地の面積合計は五一、八四二平方メートルとなつたことについて当事者間に争いがないことも又、前記のとおりである。)、

(二)  前記高野証言、同証言及び弁論の全趣旨によりその成立を認める乙第一六、一八ないし二〇号証、前記甲第二ないし第九号証を総合すれば、公明開発は昭和四二年一二月一二日印西町の山林を代金合計二六、九五八、九七八円で北総開発株式会社に売り渡していることが認められること、

(三)  原告本人尋問の結果及びこれにより原本の存在および成立を認める甲第一三号証を総合すれば、原告は、北総開発株式会社代表取締役である浅野某から昭和四二年一二月中に現金二、二〇八、九七八円を交付されていることが認められること、

(四)  印西町の山林につき、昭和四二年一二月一五日受付で、原告から御園に対し交換を原因として所有権移転登記がされ、他方、平川町の山林について同月二〇日受付で御園から原告に対し交換を原因として所有権移転登記がされていることは、前記のとおり、当事者間に争いがないこと(なお、前記2(二)認定のとおり、印西町の山林については、右登記と同日受付で、御園から更に北総開発株式会社に対し、所有権移転登記がされている。)

(五)  以上(一)ないし(四)の事実を総合すれば、昭和四二年一二月初旬ころに、原告と公明開発間で、原告所有の印西町の山林と、公明開発所有の平川町の山林を交換し、かつ、公明開発が補足金として二、〇二八、九七八円の金員を原告に交付する旨の交換契約をしたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。なお、前記(三)認定のとおり、原告が北総開発株式会社から昭和四二年一二月二八日に現金二、二〇八、九七八円の交付を受けたのは、同額の領収証が北総開発株式会社から公明開発に振出されていることからみて(前記乙一九号証)、右交換に伴なう補足金が北総開発株式会社によつて立替払いされたことによるものと認められる。又、前記(四)のとおり、交換登記が直接、御園・原告間で経由されたのは、右認定のとおり、交換が公明開発と原告間でされたことを考えれば、いわゆる中間省略の登記方法によつたためであることが認定でき、一般取引上、登録税の節約、登記申請手続の簡易化等の目的のため、かかる中間省略の登記方法が用いられていることは公知の事実というべきである。

(六)  ところで、原告本人尋問の結果によれば、右交換取引に際して、終始公明開発の高野を交渉相手としており(このほか、北総開発株式会社の浅野某も加わつている。)、御園とは会つたこともないし、平川町の山林に実地見分に行つたときにも、御園のもとを訪れることさえしなかつたことが認められることを考えれば、原告は、右交換の相手方が公明開発ではなく、御園であると信じていたとするのは困難であり、そのように信じていたとの主張を前提とする原告の法律的主張(原告の反論(五))はその当否を論ずるまでもなく、その前提を欠き失当である。

(七)  なお、付言するに、原告の反論(四)(1)記載の法律的主張は、合意解除の成立を前提としたものであり、証拠上右の事実は認めるに足りないこと前記のとおりであるから、その当否を論ずるまでもなく失当である。又、同(四)(2)イ、の主張(公明開発と原告との交換であるというためには、公明開発に平川町の山林の所有権が移転していなければならないとする主張)はそのとおりであるが、前記(一)のとおり、平川町の山林(当時は、分筆前の旧平川町の山林)の所有権は、原告との交換前の昭和四二年一〇月一六日に公明開発に移転していることが認定できるし、他方、同ロの主張(公明開発と原告との交換であるというためには、原告と御園間の交換が虚偽表示その他民法上の無効原因で無効といえなければならないとする主張)は、前記2(二)のとおり、原告主張の交換契約の存在自体認めるに足りないのであるから、もとより失当というべきである。

4、以上のとおりであるから、公明開発が、原告所有の印西町の山林と平川町の山林を交換する際、平川町の山林を所有していた期間は一年未満であること明らかであり、これによれば、原告の譲渡所得計算につき、所得税法五八条一項の交換の特例措置を適用するに足りる要件を満たしていないこととならざるを得ない。

そうすると、原告の印西町の山林の交換譲渡につき、譲渡所得の計算は、所得税法三六条、三八条等に定める通則的計算方法に拠ることとなるものであり、被告の主張(三)、(四)記載の譲渡所得の計算は右各法条に照らして適法と認められる(なお、原告の木下不動産に対する資産譲渡分(申告分)についての計算結果は当事者間に争いがない)。

5、そして、このほか、別表更正額欄記載の所得税額の計算について、誤りは認められず、被告の更正処分は相当である。

三、次に、過少申告加算税賦課処分の取消請求について判断すると、国税通則法六五条一項、三五条二項二号に照らし、被告主張の過少申告加算税の計算は適法と認められ、被告の過少申告加算税賦課処分は相当である。

原告は、確定申告に際して印西町の山林の交換譲渡を自らの税額計算の基礎としなかつたことについて、国税通則法六五条二項に定める正当な理由がある旨主張するが、本件全証拠によるも右正当な理由を認めるに足りないというべきである。

なお、原告は、同法六五条が憲法三一条に違反する旨主張するけれども、同条は過少申告加算税賦課の要件及び除外事由を明確に規定しており、所論のように何ら課税庁の恣意に任せているものではないから、右主張は失当である。

四、よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴各請求は理由がないから、全てこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木村輝武 裁判官小松峻、裁判官福岡右武は転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 木村輝武)

別表

〈省略〉

物件目録一

(一) 千葉県印旛郡印西町船尾字内野二六三番二

一、山林   三、九六七平方メートル

(二) 同所字バラ作三〇三番二

一、山林   八一〇平方メートル

(三) 同所字割地一四八一番

一、山林   三、二七二平方メートル(三反三畝)

(四) 同所字割地一四九四番二

一、山林   二、一四一平方メートル

(五) 同所字割地一五一八番

一、山林   三、二七二平方メートル(三反三畝)

(六) 同所字割地一五二六番二

一、山林   四、六一一平方メートル

(七) 同所字割地一五二九番二

一、山林   二、七三五平方メートル

(八) 同町草深字天王一一七五番二

一、山林   七、四四九平方メートル

物件目録二

(一) 千葉県君津郡袖ヶ浦町林字小作(旧表示・同県同郡平川町林字小作)三六一番一

一、山林   四〇、九七〇平方メートル

(二) 同所三六一番八

一、山林   一〇、八七二平方メートル

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